後 始 末

 

「もう、いい加減にしてもらいたいなぁ」

私は公園のベンチに座って、誰に言うとは無しにそうつぶやきました。秋とはいっても、まだ強い日差しが、私に降り注ぎました。

公園の遊び場で無邪気に遊ぶ子供たちを眺めながら、私は自分の仕事の因果を恨みました。自分が決めた仕事とはいえ、こう毎回同じことを繰り返されるといい加減嫌気がさしてきていたのです。

お得意さまなので仕方がないといえばいえないことはないのだが、止めようと思えばできる事を繰り返され、それに対してフォローをする私の立場も少しは考えてほしかった。

遊んでいる子供たちを見ていると、これから自分を待っている仕事がいやになってきました。

「いやだからと言って、逃げるわけにも行かないからなぁ」

長年の付き合いでもあり、上得意でもある依頼者なので断るわけにも行かず、私は重い腰を上げて、座っていたベンチを立ち上がりました。

「おじさんどうしたの?」

私に声をかける者がいた。ふと見ると、私の前に年のころなら10歳ぐらいの白い日除けの帽子を被ったおかっぱの女の子が立っていました。

「お嬢ちゃんかい?私に声をかけたのは」

「そうよ。なんだかおじさんが困っているみたいだったから・・・わたしはこういう者です」

そう言うと、その女の子は、両手を添えて、私に名刺を差し出した。そこにはこう書かれていました。

『ココロとカラダの悩み、お受け致します。

真城 華代』

「お嬢ちゃん、華代ちゃん、て言うんだ。自分の名刺を持っているなんてすごいねぇ」

「ええ、わたしはセールスレディですもの。でもお金はいただきません。お客様の喜んで頂けた時の笑顔がわたしへの報酬ですから」

「ほぉ〜すごいねぇ」

その女の子は、澄み切った瞳で、わたしを見つめていました。その瞳を見ていると、つい私は、今わたしが抱えている問題を聞いてほしくなりました。こんな純粋な女の子に話すべきことではないのは重々承知しているのですが、誰かに聞いてほしいという気持ちがあったのでしょう。

私は、この女の子にポツリポツリと話し出しました。

「わたしはねぇ、弁護士なんだ」

「おじさんは、弁護士さんなんだ。えらいんですねぇ」

「偉くはないよ。私みたいな汚れた弁護士はね」

女の子のキラキラした瞳で見つめられると、私は思わずそのまぶしいばかりに輝く女の子の瞳から目をそらしてしまいました。

「でも、弁護士さんて、困っている人を助けるお仕事でしょう。えんざいとか言うのから、助け出してくれる」

「ほう、お嬢ちゃんは難しい言葉を知っているね。確かにそういう仕事をしている立派な弁護士もいる。でも、私は犯した罪から逃れようとする悪人をたくさんのお金をもらって助ける悪い弁護士なんだ」

女の子は、ただ黙ってじっと私の顔を見つめていました。

「私も昔は困っている人たちを救いたいと思って弁護士になったんだが、いつの間にかカネのために何でもするようになってしまった。そして今度も許されるはずもない奴の弁護をする事になったんだ。そいつは有名な大学の先生をしているんだが、大学の女子トイレを盗撮したり、大学の女子寮から下着を盗んだりしているんだ。でも、そのたびに、私が事件をもみ消してきた。そして今度は、あろうことか、成績をダシに女子大生にセクハラ行為をしたんだ。事件のたびにもうしないと私に誓ったにも関わらずだよ。私はもう彼との関係に疲れてしまった」

私は誰にも言えないでいたことを、この見知らぬ女の子に話してしまいました。依頼者のことを話した罪悪感よりも、胸に痞えていたことを話せたことに安堵感を覚えました。

「さあ、私は行かなくては。お嬢ちゃん、いや、華代ちゃん。汚い大人の話を聞かせてすまなかったねぇ」

私は女の子にそう詫びると、その場を去ろうとした時。

「ちょっと、待って。おじさん、その人は女の人の身体を見たり、触ったりしたの?」

「あ、ああそうだよ。でも、この事はもう忘れて・・・」

「私が解決してあげる」

女の子はその澄んだ瞳をさっきよりも数十倍に輝かせながら私の言葉を遮ったのです。

「その人に合わせて。その人がもう二度と、他の女の人の身体を見ないで良いようにしてあげるから」

「華代ちゃん。そんな事は・・・」

「私に任せて。ね、おじさん」

なぜそんな事をしたのでしょう?余程、彼の後始末に疲れていたのだと思います。私はこの女の子を連れて拘置所にいる彼に面談に行ったのです。

女の子は、私の姪で、社会見学の為に連れて来たと、無茶な理由で面談所に連れて入りました。面談所に入ると、逃亡防止の硝子の向こう側に、小太りの彼が、看守に連れられて現れました。

「先生。いい加減ここから出してくださいよ」

私の顔を見ると、開口一番、彼は私にそう言いました。

「今回は、言い逃れは出来ませんよ。あなたが、女子大生の身体を触りまくっていたのをほかの人に見られたのですからね」

そう、今回の事件は、彼が研究室で成績をネタに、女子大生の身体を触りまくっていた時に、彼への来客を連れてやって来た事務員と客に、その現場を見られているのです。

「アレは彼女との合意だったんですから。そこの事を強調して」

「だめです。相手の女子大生が、彼らが部屋に入る前に悲鳴をあげて、ドアを開け、逃げだそうとした彼女をあなたが捕まえて、無理やり研究室に引きずり込んだところを見られているのですから、罪状を覆す事は無理です」

「それをするのがあんたの仕事だろうが。そのためにあんたに多額の金を払っているんだぞ」

そう怒鳴ると、硝子越しに私に詰め寄った。その時の彼の姿は、教育者というよりも、まるでそこら辺のチンピラでした。まったく反省の色はありませんでした。

『私は、こんな男を世の中に野放しにしていたのか・・・』

仕事とは言え、私は今までの自分の行動に恥じました。

「おじさんはそんなに女の人の身体が好きなの?」

「ん?誰だ。このガキは?」

「わたしは、真城華代。セールスレディです」

そう言うと、私にくれたのと同じ名刺を彼に差し出しました。

「ガキンチョのクセに生意気にも名刺を持ってるのか。そうだ、俺は女の身体が好きなんだよ。悪いか!」

「そう、じゃあ。おじさんの願いをかなえてあげる」

「ああ、叶えてもらおうか」

女の子は、目を閉じて顔を伏せると手を組んで、なにやらつぶやき出しました。

「トリトリツケツケみらくるぱわぁ〜〜〜」

組んでいた手を、彼に向けて、何かを押し出すかのように開くと、組んでいた手のひらの間から彼に向かって光の玉が放たれ、彼はその光に包まれました。

「う、うわぁ〜〜」

私はそこに信じられない光景を見た。小太りのドテッとした彼のお腹が萎んでいき、その代わりに胸やお尻が膨らみ、髪が伸び、太く短い手足が細長くなり、不健康な黒さをした彼の肌が、白く決め細やかに変わって行ったのです。

そして、光が消えると、彼が立っていたところには、胸とお尻がパンパンに張り、後はダブついた服を着たスタイルの良い若くて綺麗な女性が立っていました。その顔にはかすかに彼の面影がありました。

「どう?自分の身体なら、どんなに見ても触っても、誰にも文句なんて言われないわよ」

そう言うと、女の子はひまわりのような笑顔で微笑みました。

 

 

 

今回のお仕事も簡単でした。だって、誰にも迷惑がかからないようにすれば良いんですもの。

自分の身体だったら、見放題、触り放題ですものね。

今度は、あなたの悩みを聞かせてね!

じゃあ、それまで、バイバイ!